カテゴリー別アーカイブ: 味噌のミソ

包む、包まれる

だんだんと季節が春めいてきましたね。
暖かくなってくると、サワラの味噌漬けやちしゃもみなど、旬の食材と白味噌を使った香川の郷土料理が待ち遠しくなってきます。

全国にはたくさんの郷土料理がありますが、味噌を使用したものはどこか面白いものが多いなと感じます。
昔から伝わる代表的な調味料、砂糖から始まる「さしすせそ」のなかでも、味噌の形状はペースト状なのが特徴。様々な形に変化しやすいことが、上記の料理のように漬けるや和えるだけでなく、料理のバラエティにつながるようです。

そのバラエティのなかでも、味噌を包んだものと味噌で包んだもの、と違う切り口でみていくのも楽しいものです。

味噌を包んだもので代表的なものは、奈良や長野にある「ゆべし」や「柚もち」。
名称は少しづつ違いますが、くり抜いた柚に味噌などをいれたもの。軒下などで乾燥させて、お茶請けに薄く切って食べられています。和菓子のゆべしとはひと味ちがった珍味です。
東北にある「紫蘇巻き」は、お酒にも合いそうな一品。その名のとおり、紫蘇で味噌を巻いたものをつまようじに刺し、さっと焼くようで、夏の食欲が落ちそうな時期にぴったりですね。
正月に京都などで食べられる「花びら餅」も、白味噌とゴボウを白餅と薄赤い餅で重ねて包んだもの。宮中行事の「歯固めの儀式」に由来した、雅でおめでたいお菓子です。

味噌で包んだものとしては、「味噌田楽」を上げたいと思います。
全国的にある味噌田楽ですが、炉端で焼かれるものは味噌をたっぷりと塗られて焼かれ、串にささった里芋や豆腐、こんにゃくなどの旨さを、味噌の香ばしさが引き立てています。
長野の遠山郷には、特産のじゃがいも〈二度芋〉を使った味噌田楽があり、県の選択無形文化財に指定されています。
徳島の山深い祖谷地方には「でこまわし」
一番上の丸い芋を頭を〈木偶(人形)〉に見立てて、これを炭火の周りで回しながら焼く様子から名付けられました。

もうひとつ、包むといえば野趣あふれる河原での魚料理。
河川にある平たい石を焼いて、味噌で円形の土手にして魚や野菜を焼いていく豪快な調理法は、新潟の「鮎の石焼き」や徳島の「アメゴのひらら焼き 」などが有名です。野外で大勢が集まってたべる団らんは、食欲をそそりそうです。
始めはきれいに並べられた食材に味噌がしみ込んでいく頃には、集まった人の距離がぐっと縮まって、楽しい時間になっていくでしょうね。

いろいろな場所で伝わる料理には、沢山の楽しみ方が詰まっています。これからのお出かけシーズン、各地の郷土料理を目指して旅行にいくのも面白そうです。

色冴える、自然のめぐみ

日差しがだんだんと暖かくなってきました。
まだまだ寒さは感じますが、春はもうすぐそこまで来ているかの様です。
朝から開始する味噌作りにも、水の冷たさのちょっとしたゆるみを感じられるようになりました。
作業が終わり並んだ味噌樽は、澄んだ空気のなかで静かに醗酵を待ち、天井や梁に長年染み込んだ麹菌なども、成熟を促していきます。どこかその姿に神聖さをみてしまうのは、人の力はここまでとして、後は自然の力にお任せしているからかもしれません。

この寒さ厳しい時期に作る味噌は「寒仕込み」といい、家庭では昔から一年分を作っていました。1月からの寒い時期に仕込み、時間をかけてゆっくり発酵をうながします。気温が下がる頃には深みがでて、おいしい味噌になります。

凍るような冷たい水を蛇口から出したときに、澄んでいると感じるときはありませんか。
この水が寒仕込みには重要な要素。
二十四節気にある「小寒」と「大寒」の間を「寒」や「寒中」といい、その期間中に汲んだ水を「寒の水」といわれます。一年で最も質が良い水とされ、食材が腐ることなく保存できると昔から伝わっています。
水の冷たさは染色にも関係し、こちらは「寒染め」として無地や黒などの染め上りを美しく仕上げてきたようで、寒中に染められた鯉のぼりなどは、色あせがしにくいといわれています。

味噌も成熟が進むと濃い色に変化していきます。自然の力に昔からの知恵と時間をかけて、作り出された味噌の美味しさ。
この絶妙なバランスをかけあわせた味噌を『紅白合わせ味噌』として年末より発売しています。昨年に仕込んでじっくり熟成し旨味を引き出した赤味噌と、そこに糀の香りと上品な甘味の白味噌を調合させました。

味噌樽を確認するたびに小さな変化をみせる色は、ぬるむ水のように仕上がりを待つ心に密やかに送ってくれる、味噌からの美味しさの合図です。

あん餅雑煮点描

早いもので年が明けて一ヶ月がすぎました。
もうお正月の気分からは遠くなりましたが、今年も三が日にはおせちやお雑煮を召し上がった方も多いのではないでしょうか。

香川のお雑煮といえば、あん餅の入った雑煮が有名。
白味噌にあん入りの餅は全国的にみてもめずらしいかと思います。
先日色々な方とお話しする機会があり、時節がらお雑煮についてどのように召し上がるか聞いてみたところ、さまざまな食べ方を教えていただきしました。

あん餅で雑煮を食べられる方は、香川の真ん中あたり中讃地域で多く、三豊市などの西讃地域では白丸餅が多いとのこと。またあん餅を食べる地域でも、個人的に甘いものは苦手と食べない方もおられます。反対に、県外から来られた方がはじめは躊躇したものの、今ではあん餅でなきゃとおっしゃる方も。

具材となる大根や人参は一般的なようですが、他にいれる食材はさまざま。
豆腐や玉ねぎ、トッピングに青のり(お好み焼きにつかわれるあおさを細かく切らずに使います)や鰹節、葱などバリエーションに富んでいていました。

味噌は、比較的地域にかかわらず白味噌を使われるようで「1月中はずっと白味噌で味噌汁なのよ」とメーカーとしてもうれしいお話もいただきました。その後も、家では白餅が残るからぜんざいで食べますや、客人が多い年は2日にあん餅がなくなって慌てたこともなど、雑煮のあれこれ話に花が咲きました。

あたり前に感じていた作り方も地域で違うように、各家庭ですこしづつ変わる味。
おせち料理のように華やかさはないけれど、あん餅雑煮に親しみを感じている様子に、これからも白味噌を通して郷土料理を伝えていくお手伝いが出来れば有り難いことと思う機会でした。

年末のごあいさつ

はやいもので、今年も残すところあと少しとなりました。
月日が過ぎ去るのが早く感じますのも、さまざまな場所で皆さまからご支援いただいた賜物。
本年もお世話になりました事、深く御礼申し上げます。

振り返れば、 オリンピックや熊本の地震など色々な出来事があった年ですが、皆さんにはどのような一年だったでしょうか。

弊社にとりましても6月の台湾、10月の上海と海外においての販売イベントや、NHK文化センター高松教室やリビングカルチャーでの味噌作り教室など多くの催しのなかで、国内外の方々と交流深い年となりました。

来年も味噌作りを根本にしながら、多くの方にお会いし味噌文化食文化をお伝えできればと思っております。
どうぞ、皆様にとりましてよい年を迎えられますことを、お祈り申し上げます。

集う楽しさ鍋料理

先月半ばから冷え込み始め、本格的な冬の到来を感じます。
この時期食べたいものは色々ありますが、やっぱりあたたまる鍋料理がうれしく思います。

最近の鍋料理は新しいモノ好きな日本人を表すように、毎年のように違う味が出てきますね。
定番になったもつ鍋や豆乳鍋•キムチ鍋などは、餃子やロールキャベツをいれて彩りをそえています。トマトやレモン・パクチーなどの様々な食材が使われたものがあり、トムヤンクン鍋など海外の料理を取り入れたりと、おどろきや流行を感じます。また、鍋の素のパックや一人前のキューブになったものなど、手軽に調理出来るようにもなりました。

味噌を使った鍋料理として有名なのは、広島の「土手鍋」

鍋のまわりに味噌を塗った形から名付けたとの説が一般的ですが、もうひとつのいわれもあるそう。安芸の矢野町にすむ<土手吉助>なるカキの行商人が、大阪にてカキを使った鍋物を作ったところ、好評を博しその名をとったのが始まりとの事。どちらにしても、あまり火を通しすぎずカキと味噌の風味をいかした食べ方を伝えた先人に、ありがたさを感じつつ大切にしたい鍋料理。

鍋料理の話を書いた北大路魯山人は
“上方では「楽しみなべ」ともいっている。なぜ「楽しみなべ」なのかといえば、いろいろな材料がちらちら目について、大皿に盛られたありさまが、はなやかで、あれを食べよう、これを食べようと思いめぐらして楽しみだからである。”
と紹介。

美味しい味を探求して新しい味が生まれる、食へのどん欲さは日本人ならではと感じます。好奇心旺盛に各国の料理を取り込んでいく鍋料理は、他国の文化を取り込み、自分たちに合うよう変化させ、集う仲間と和気あいあいと昇華させていく私たちの姿のようです。