よきもの忍ばせて

初夏の日差しと肌寒い雨が、交互に訪れています。
今年の梅雨は例年よりは早くやってきながら、少し恥ずかしがり屋のようです。

仕事柄、立ち寄るスーパーなど食料品店では、春から夏に旬を迎える食料品が彩りをそえています。先日までならんでいた筍から、夏野菜のゴーヤに変わっていく様は、季節の移り変わりの早さを感じますね。

鮮魚売り場でもアユやトビウオ、県魚のサワラなど、夏先に美味しい魚介が並んでいます。弊社も旬の時期にあわせて、香川の郷土料理「サワラの味噌漬け」に適した『みそ漬け用味噌』を業務用に出荷しています。

この味噌漬け、全国にはさまざまなものが伝わっています。

サワラの味噌漬けと同じく、時期物の魚を使った「西京漬け」は、京都一円の郷土料理。海から遠い土地に運んできた魚を、白味噌の西京味噌に漬け込み、日持ちと美味しさを引き出した一品になっています。

またお隣の近江では、「近江牛の味噌漬け」が有名。将軍家の献上品「養老の秘薬」ともなりました。幕末の桜田門の変につながる逸話もあり、その味の良さを伺わせます。

野菜を使ったものでは、岩手の主に花巻地方で作られている「金婚漬け」があります。

瓜のワタを筒状にくり抜き、中に昆布で巻いた大根や人参などを詰めて、味噌漬けにしたもの。
1月から1年以上漬ける保存食で、なまこ(きんこ)に似ているからとも、漬かれば漬かるほど味が良くなるところから、金婚式にかけて名付けられたともいわれています。輪切りに切れば、人参など中に詰めた野菜が色を添えた、名前通りおめでたい漬け物です。

金婚漬けに似た漬け物が、三重にもあります。

「養肝漬け(ようかんづけ)」といい、こちらは瓜のなかに刻んだ大根やキュウリにショウガや紫蘇の実などを昆布で巻いたもの。骨太な名前なのは、伊賀上野の初代藩主、藤堂高虎が陣中食として貯蔵を推進し、これで武士の肝を養うとしたところから名付けられました。

一説には忍者の携帯食だったとのこと。
戦国時代には、伝統食の基礎になったものや、面白い食べ方のものなどがありますが、養肝漬けもそのひとつ。瓜のなかに詰めて味噌漬けしておけば、中の野菜の風味を損なわせることなく、長期にかけて保存が可能となります。食べる直前にスライスすれば気軽に食べることが出来る、手軽な携帯食でもありますね。

漬け込むことで食材の美味しさを引き出す味噌漬けは、昔の人の知恵が詰まった食文化。ぜひ、変化楽しい味噌漬けを味わってみてくださいね。